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名古屋地方裁判所 平成5年(特わ)1606号 判決 1994年4月28日

被告人

一 本店所在地

名古屋市中区千代田五丁目一六番五号

名称

北嶋工業株式会社

代表者

井村安雄

二 本籍

名古屋市名東区新宿一丁目二一五番地

住居

同所

職業

会社役員

氏名

井村安雄

年令

大正一五年一一月一一日生

検察官

瀬戸毅

弁護人

小山齋(主任)、三林昭典

主文

被告人北嶋工業株式会社を罰金二、五〇〇万円に処する。

被告人井村安雄を懲役一年六か月に処する。

被告人井村安雄に対し、この裁判確定の日から三年間、刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人北嶋工業株式会社(以下、「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、空調・衛生関係等配管設備の設計・工事業を目的とする資本金六〇〇〇万円(但し、平成三年一〇月一六日までは四〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人井村安雄は、被告会社の代表取締役(但し、平成元年八月二七日までは取締役)として、その業務全般を統括しているものである。被告人井村は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の工事原価を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が二億三一二九万九〇九三円あったにもかかわらず、同年八月三一日、名古屋市中区三の丸三丁目三番二号所在の所轄名古屋中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億〇九〇〇万七六九三円で、これに対する法人税額が四〇二七万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八九一八万三四〇〇円と右申告税額との差額四八九一万〇六〇〇円を免れた。

第二  続いて、平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得額が二億七一五八万六九五九円あったにもかかわらず、同年八月二九日、前記名古屋中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七四八七万五八五九円で、これに対する法人税額が六三二四万一七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九九五〇万八四〇〇円と右申告税額との差額三六二六万六七〇〇円を免れた。

(証拠)

括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。

1  全事実につき、

(1)  第一回公判調書中の被告人兼被告会社代表者(以下、「6被告人井村」という。)の供述部分

(2)  被告人井村の検察官調書三通(乙1、4、5)

(3)  関武弘(二通)、伊藤敬彦、坂入基之、牧野広孝の検察官調書(甲3、6ないし8)

(4)  査察官調査書二通(甲13、15)

(5)  閉鎖登記簿謄本二通(乙6、7)、閉鎖登記簿の役員欄用紙謄本一三通(乙8ないし19)、登記簿の役員欄用紙謄本(乙20)

2  第一事実につき、

(1)  被告人井村の検察官調書(乙2)

(2)  関武弘の検察官調書(甲4)

(3)  証明書(甲1)

3  第二事実につき、

(1)  被告人井村の検察官調書(乙3)

(2)  関武弘、加藤栄一、高山恒夫、小川義雄、杉本俊文の検察官調書(甲5、9、10、11、12)

(3)  査察官調査書(甲14)

(4)  証明書(甲2)

(法令の適用)

罰条 法人税法一五九条一項(被告会社につき、更に同法一六四条一項。情状にかんがみ、同法一五九条二項を適用)

刑種の選択(被告人井村関係)

懲役刑選択

併合罪加重 刑法四五条前段(被告人井村につき、更に四七条本文、一〇条により犯情の重い第二の罪の刑に加重)。(被告会社につき、更に刑法四八条二項)

刑の執行猶予(被告人井村関係)

刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  本件の脱税額は、合計八五〇〇万円余りもの多額にのぼり、逋脱率も、第一事実については四五パーセント余り、第二事実については六三パーセント余りと相当の高率に達している。

犯行態様をみても、未完成工事原価を完成工事原価に付け替えたり、架空の工事原価や退職金を計上する等の不正な経理処理方法により日ごろから利益を圧縮して確定申告に備えており、計画的な犯行である。また、被告人井村をはじめとする被告会社の主要な幹部の全員が犯行に関与した組織的な犯行であり、悪質である。

とくに、被告人井村は、自らこのような方法による利益の圧縮を経理担当者に指示・命令したばかりか、経理担当者がその指示に従って利益額を圧縮した損益計算書等を作成して報告するや、より大幅な利益の圧縮を命じてさえいるのであって、被告人井村が積極的に犯行を主導しており、その果たした役割は甚だ大きい。

更に、被告会社では、被告人井村が代表取締役に就任した後の平成二年一月ころに、本件と同様の方法による脱税が発覚し、修正申告するとともに適正な経理処理をするように一旦は改めたことがあったにもかかわらず、なお本件一連の犯行に及んでいる。いかにも大胆であるとともに、被告人井村をはじめとする被告会社の幹部らの租税関係の法律を軽視する姿勢が顕著に認められる。被告会社と被告人井村の量刑を検討するに当たっては、この点も軽視することはできない。

しかも、犯行の動機は、被告人井村が被告会社の代表者の地位にある間に利益を挙げ、老朽化した本社社屋の新築を行うなどして実績を挙げたいと考えたところにあり、被告会社の幹部らも、被告人井村に無批判に追従したというのであって、要するに、経営者としての手腕を誇示しようとしたものに過ぎず、酌むべきところは全く見出されない。

加えて、被告人井村の公判廷における供述の端々やその態度などにかんがみると、自己の犯罪行為の重大性を果して十分に認識・理解しているのか、あるいはその言葉程に深く反省・悔悟しているのか、疑念を抱かざるを得ない点すらもないわけではない。

これらの諸事情に照らすと、被告会社及び被告人井村の犯情は甚だ悪く、厳しく刑事責任を問われるのは、けだし当然である。

二  しかしながら、他方、被告会社は、平成四年八月には本件にかかる二期分の法人税につき修正申告を行い、本税はもとより重加算税、延滞税、地方税を全額納付したこと、本件の発覚を機に経理体制を改善し、同種の事件の再発を防止する措置を講じていること、被告会社と被告人井村のいずれにも前科がないこと等量刑上斟酌すべき情状も認められる。

三  そこで、以上の諸事情を総合的に検討し、被告会社を罰金二五〇〇万円に、被告人井村を懲役一年六か月に処することとするが、被告人井村に対する懲役刑の執行は、その年令をも併せ考慮して、改めて自己の行った犯罪の重大性を認識し、理解を深めるよう戒めつつ、今回に限り、被告人井村に対する刑の執行を三年間猶予することとする。

(裁判官 川原誠)

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